サプリメント健康法はここから始まった?
足りなくなると脚気になる「謎の成分」は
鶏のエサの違いにヒントがあった。
脚気という病気を知っていますか? 末梢神経の障害が手足の痺れを引き起こす病気です。人類は昔から、この病気の原因と対処法が分からずにいました。19世紀後半、オランダ領東インド諸島(現在のインドネシア)で脚気が広まり、オランダ政府は特別調査団を派遣しました。当時は脚気は疫病と考えられていて、何らかの細菌が原因ではないかという説が有力でした。調査団も脚気を引き起こす細菌を見つけ出そうと研究を続けましたが失敗(そもそも、そんな細菌など存在しない)。
調査団の一人である軍医クリスチャン・エイクマンは長年の研究から「脚気は病原菌が原因と考えるのは間違っているのでは」と疑っていました。当時、脚気で死んだ鶏から採取した試料を使って、健康な鶏を脚気に感染させようという実験をしていましたが、良い結果が得られていませんでした。実験に用いた鶏以外の鶏まで脚気になってしまう状態でした。しかし、その原因となる病原菌も寄生虫も発見できません。
ところがここで、大いなる偶然がエイクマンにヒントをもたらします。
鶏が脚気にかかっていたのは7月上旬から11月末までの期間で、それを過ぎると脚気が直ってしまったのです。なぜこの期間だけ病気になっていたのか?
エイクマンが調べてみると、病気になっていた期間、鶏は精白米がエサでしたが、それ以外は精米されていない玄米で飼育されていたのです。エイクマンはすぐに鶏に与える米を分けた実験を行い、玄米を食べていた鶏は脚気にならないことを突き止めました。
このことからエイクマンは、まず「玄米に含まれる何かの成分が脚気の原因となる毒を中和するのでは」と考えたのですが、後に考えを改め、ある画期的な発想に思い至ります。
脚気とは食事に含まれるある微量な成分が「足りなくなる」ことで起こる病気だと。
病原菌が健康な体に入り込んで起こる病気以外に、健康な体が必要とする「何かの成分」が足りなくなっても病気になる、というものです。現代に生きるわれわれには、なじみのある考えだと思わないでしょうか? そう、エイクマンが考えた「足りなくなる成分」の正体は、「ビタミンB」として知られているものです。現在、脚気はビタミンBの不足が原因で起きることが分かっています。
1911年、カジミール・フンクはビタミンBの抽出に成功します。しかし、その前年、日本の研究者鈴木梅太郎が米糠から脚気を直す成分としてオリザニンを抽出しています。これはまさしくビタミンBだったのですが、残念ながら世界で認められることはありませんでした。