特別な訓練をすることもなく、
誰でも文章を読む速度が早くなる?
そんな夢のようなディスプレイの可能性。
仕事で大量の資料に目を通さなければならないビジネスマンや、試験を控えた学生にとって、「速読法」は一度は気にしたことがあるはずです。ただ問題なのは、そうしたテクニックを使えるようになるには読む側が努力する必要があるという点でしょうか。
では読者が何らかのトレーニングをする必要もなく、スラスラと文章を読んでいける方法があるとしたらどうでしょう。そんな可能性を感じさせてくれるのが、公立はこだて未来大学システム情報科学部の川嶋稔夫教授の研究です。そもそも私たちの眼は、中心窩という直径1ミリに満たない狭い領域に入るものだけを注目していて、その周辺についてはぼんやりとした動きしかとらえていないそうです。もし周辺に何か動きがあれば、視線(注意)をそちらに移すという特徴があります。文字を読む時も同様で、注視している部分と次に読む部分を瞬間的に切り替えながら、私たちは文字を追っているのです。日本語の文章であれば、漢字から漢字へと視線を移動させて、読み進めているようです(だからひらがなばかりの文章は非常に読みにくくなる)。となると、その切り替え速度を短くしていけば、結果的に早く文章を読めることになるわけです。
川嶋教授は文章の側が読者に対し、次にどこへ視線を移せばいいかを教えるような振舞いをすれば、読むスピードが上がるのではないかと考えました。「でも本は印刷されていて、文字は動きようがないでしょう」という意見は古い考え。
既に私たちは、PCモニタや液晶画面上で大量の文章を読むことに慣れているのではないでしょうか。オフィスでは紙の書類よりもパソコンのデータファイルに目を通し、調べ物ならインターネット検索が当たり前になっているはず。川嶋教授の速読の研究も、ディスプレイを用いています。
実験として新聞の社説をサンプルに、被験者が読み進めるのに合わせて「7文字ずつ区切って少しずつ上下に振動」させてみたところ、文字を追いかけるように視線がスムーズに動いていくことが分かりました。また書かれている内容についての理解も落ちておらず、決して読み飛ばしているわけでもないとの結果が得られました。なにより興味深いのは、あまり早く読めなかった人が、実験を繰り返すうちにかなりの速読能力を身につけたという点です。
ここから期待できるのは、読む人の視線を自動的に感知して、読む速度を上げるような反応を示すディスプレイの開発です。読書のペースメーカー機能とでも言うのでしょうか。人間の能力を引き出してくれるデジタル機器の可能性は夢物語ではないようです。