カラスは黄色が見えない!?
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人間社会の身近に生息するカラス。
どこかユーモラスな変な鳥です。
いま「黄色いゴミ袋」がカラス対策として
注目されていますが、なぜ効果があるのでしょうか?
カラスの生態と視力の秘密に迫ります。
「夢見るカラス」写真撮影:杉田昭栄氏
実は杉田教授は、「カラス写真写真家」。いつの日か「カラス写真集」を出版するのが夢。
■遊ぶカラス
「どこの街にもよくある公園の滑り台に鳥がとまっています。鳥は、滑り台を滑って地上におりました。次の瞬間、また鳥は滑り台の上に飛び上がって、滑り台を滑り降りて行きます」また「屋根から落ちたと思ったら、地面スレスレのところで急上昇をする鳥がいます。一度だけなら飛びそこなったと考えられますが、それを何度も繰り返します」さらに「電線にとまっている鳥が鉄棒のように、クルッと大車輪をしてみせる」その鳥の名は、カラス、遊んでいるのです。
動物にとって生き延びることと種の保存(繁殖行為)こそが一番の目的で、動物の全ての行動は、この2点から説明することが可能です。ところがカラスをよく観察してみると、それとは全く関係のない行動を取ることがあるそうです。これらは生存や種の保存とは何の関係もない行為で、あえて言えば「遊んでいる」としか説明できません。ちなみにカラス以外で「遊ぶ」動物は、実は人間だけなのです。
「カラス博士」として知られる杉田昭栄教授の元には、カラス対策グッズを開発する企業や各自治体から相談事が多数寄せられるという。
■カラスの生態
「カラスは雑食で、肉も食べれば穀物も食べる。環境への適応力も非常に高く、集団で行動するなど一定の社会性さえ持っています」
こう語るのは宇都宮大学農学部生物生産科学科の杉田昭栄教授。「カラス博士」の異名を持ちカラスに関する著書も多い杉田教授ですが、実は鳥類学が専門ではなく「専門は神経解剖学で、脳機能の研究などがメイン」なのだそうです。しかし本職の鳥類学者とは異なった解剖学者ならではのアプローチが、カラス研究に新しい風を呼び込んでいます。
「カラスを解剖して脳を調べてみると、人間と同じように大脳が非常に発達していることが分かります。また神経細胞の密度も、他の鳥に比べて非常に高い」
どうやらカラスが高度な情報処理・学習能力を持っていて、頭がいいのは間違いなさそうです。また消化器官を調べてみると、通常の鳥にあるような胃壁が厚い筋胃(砂肝)ではなく、壁が極端に薄くて柔らかい袋のような胃を持つとのこと。カラスが雑食として進化してきたことが分かります。
「雑食で天敵がいないカラスは、自然界の食物連鎖からは外れた存在のように思います」と語る杉田教授。他の動物より頭が良くて、何でも食べ、これといった天敵がいないので、どんどん増えていく……まるで人間みたいですね。もしかしてカラスと人間は、似た者同士なのではないでしょうか。
■黄色いゴミ袋の効果
カラスと人間、互いに似ているとはいえ、仲良くしているわけではありません。逆に近年はトラブルになっているケースが増えています。
半透明のゴミ袋の普及とともに、生ゴミをあさるカラスの害も全国で増えてきました。くちばしでゴミ袋を切り裂いて、残飯の中から好物の肉類を器用に取りだすカラスたち。ちなみに野菜好きではないようです。都市部ではもっぱら人間のゴミを頼りにしているようで、豊富なエサがあればカラスの数も当然増えていきます。数百、時には千の単位で群れをなすカラスは、それだけで怖く感じられますし、大量の糞による被害も悩みのタネ。これを何とかしたいと、杉田教授が開発に協力して誕生したのがカラスには見えない「黄色いゴミ袋」です。
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「そこにエサがあると分かるから、カラスはゴミ袋をあさります。ならばエサが見えなくなれば、習性としてカラスは他の場所に探しに行ってしまうはずです」
この黄色いゴミ袋、黄色なら何でもOKというわけではなく、特定の黄色でないとカラスの目をだませません。
「実はカラスというのは人間よりも優れた視力を持っています。人間は光の3原色(赤、青、緑)を組み合わせてものを見ていますが、カラスの眼は4つの色を組み合わせています。この黄色いゴミ袋を使うと、4つのうちのひとつの色を遮る効果があり、結果的にカラスの視力がガタガタになり、袋の中を見通すことができなくなるのです」
この「黄色いゴミ袋」は、人間よりも精度が高いカラスの視力を逆手に取ったアイデアと言えそうです。既に東京都杉並区、大分県臼杵市でもカラス対策に効果のある推奨品として利用が始まっています。
「エサが見つからなければ、確実にカラスの数は減っていきます。数が減れば、各地で問題となっているカラス害も自然と解決されていくのではないでしょうか」
海外では「死のイメージ」と結び付けられることが多いのですが、日本ではどこかユーモラスな存在です。古事記に登場する神話の鳥「ヤタガラス」(サッカー協会のシンボルマークにもなって有名)や、童謡「七つの子」のように親しまれてきたカラス。できれば敵対するのではなく、ほどほどの距離を置いて、付き合っていきたいものです。