真空中でも生き延びる無敵の生物クマムシ
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長い進化の連鎖は時に信じられないほど不思議な成果を生みだすことがあります。強靱な生命力を持ったクマムシとは?
SFやホラー映画に出てくるような、どんなダメージを負っても死ぬことがない不死身のモンスター……そんな生物が本当にいたらどうでしょうか? 実は本当にいるんです。そんな無敵の生物が。
その生物の名は「クマムシ」。緩歩動物門に属し、体長は1ミリから0.5ミリくらい。4対8脚の足でゆっくりと歩く姿がクマに似ていることからクマムシと呼ばれるようです。ちなみに英語でも「water bears」と呼ばれています。植物に穴を開けて、その細胞液を吸うことで養分を得ています。
地球上のいたるところに生息し、日本でも湿地のコケが生えているところや池の水草の中で普通に発見することができます。「地球上のいたるところ」と書きましたが、本当にどんなところでもクマムシは生きています。例えば北極や熱帯地方、ヒマラヤ山脈に深海にまで……つまり激しい環境の変化にも耐えられるというのが、クマムシが無敵の生物と呼ばれる理由です。
温度変化で言うと、摂氏150度の高温から絶対零度近いマイナス270度でも死ぬことはありません。温泉の中でもクマムシは生きています。乾燥に対しても体内の水分を3%にまで落とすことで耐えぬき、水の中に入れると元に戻る(まるでフリーズドライ食品のようです)。放射線に対しても驚異の耐性を持ち、強力なX線を浴びせても問題なし。圧力についても他の生物ならとうてい耐えられないような高圧力から、なんと真空状態でも生きていられるというから正に正真正銘の不死身の生命体と言えるでしょう。
ではなぜ、そんなにタフなのか? クマムシは周辺環境が悪くなると、樽状に体を変化させます(ワインの樽に似た形状になる)。この樽状になったクマムシは、この時、一種の「仮死状態(クリプトバイオシス)」にあるようなのです。
樽状になることで、代謝機能を極限まで抑え、周辺環境が良くなるまでじっと待ち続ける……一体どんな進化の過程で、こうした能力を身につけるようになったか興味は尽きませんが、実はこうした驚異の生命力を持った生物は他にもいるのです。
例えばアフリカに生息する「ネムリユスリカ」は、乾燥した環境ではクマムシのような仮死状態に移行し、再び水を得られるまで耐え続けるといいます。
こうした生物のDNA解析が進み、その成果を活用できるようになったら……本当のスーパーマンが生まれるかもしれませんね。
「クマムシ」の写真は以下のサイトで見ることができます。
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参考文献:リン・マルグリス他『五つの王国』(日経サイエンス社)